ここは不思議な不思議なメッシー森。 普通はあり得ないものが存在する。 ある日、崖の上で木を切っていた青年がいた。 しかし疲れていたのか、斧を握る手に力が入らず、斧が手からすっぽ抜けてしまった。 そのまま斧は、崖下の泉に落ちてしまった。 青年は慌てて泉まで下りた。 そこは、むせかえるほど酸っぱい匂いが漂う、マヨネーズの泉だった。 これでは斧を探すどころではない。 青年が諦めて帰ろうとしたその時、泉から何者かが現れた。 それは、黄色いつややかな髪をして、黄色い服を纏い、黄色い雫を滴らせた女性… いや、全身マヨネーズまみれの女神だった。 「うぶ…ぶえぇ…」 女神は、それはそれは酸っぱい匂いを全身から漂わせていた。 「うぅ…酸っぱいよぉ… これ、この中で待つ必要ある? うえぇ… 目が開かない… ベトベトだし… ぺっぺっ…」 ぐちょ ぐちょ ぐちゃ ぐちゃ 泉とは思えない音をたてながらこちらへ近付こうとする女神。 「んん… はぁ… やっと前が見えた… あ、そこの人! 貴方が落としたのはこの、この…」 女神は両手に斧の形をしたマヨネーズを持っていた。 「違う! マヨネーズじゃない! これは斧! 貴方が落としたのはこの金の斧ですか? それともこちらの銀の斧ですか?」 青年は、漂う匂いに顔をしかめ、女神を胡乱な目で見ながら、違うと答えました。 「なるほど! 貴方は正直者のようですね! では、貴方には、先程落とした貴方の斧と…」 ぐちゃ ぐちゃ ぐちょ ぐじゅる にゅじゅる 「きゃあっ!」 泉の中を歩いていると、マヨネーズだから滑るのでしょう、バランスを崩して女神はすっころんだ。 「う… くの… はぁ…はぁ…歩きにくいよここ… あ、貴方にこの金の斧と銀の斧を… を…? あ、あれ? どこ?どこ?」 どうやら転んだ拍子に、手に持っていた金の斧と銀の斧を落としてしまったようです。 マヨネーズは油を含んでいるので、握りしめようにも滑るようです。 またマヨネーズは不透明なので、女神でも泉の中が見えないのでしょう。 「うぅぅ… どこよもぉ! あ、あった! さ、さぁ! この金の斧と銀の斧、そして貴方の落とした鉄の斧を…! って、あれ?」 どうやら青年は、女神の痴態を冷ややかな目で見たあと、匂いで気分を害したのか、早々に立ち去ったようです。 残された女神はマヨネーズを滴らせ、両腕に3つの斧を抱えたまま、呆然と立ち尽くしていました。 「うぅ… そんなぁ… また受け取らずに帰っちゃったぁ…」 まぁそんなマヨネーズでベトベトになった斧なんて、触りたくもないでしょう。 「うるさいわね! こっちは困ってるのよ! ゴミが増えるばかりじゃない! だいたいなんで私がこんな泉にいなきゃならないのよ!」 悪態をつく女神だが、改めて見ても女神に見えない。ただ全身マヨネーズでベトベトな女性… いや、そもそも女性だともわからない。 「うぅ… もうやだぁ!」 ここは不思議な不思議なメッシー森。 きっとここ以外にも、あり得ないものが存在する。 今日も、各場所の担当にされている哀れな女神たちの悲痛な叫びが聞こえてくるのだった。
一覧へ